ユニファ開発者ブログ

ユニファ株式会社プロダクトデベロップメント本部メンバーによるブログです。

保育の質を「測る」

はじめに

こんにちは、AI開発推進部の島田です。

UnifaではIoTやAIを活用し、保育業務の負担を軽減することで保育者の時間と心のゆとりを確保し、保育の質を高めることを目指しています。さて、ここでふと立ち止まって考えてみるとそもそも「保育の質」とは何なのでしょう?またそれを定量的に測る方法はあるのでしょうか?本記事では、この「保育の質」について日本国内あるいは世界でどのように定義づけがされていて、さらにこれを客観的かつ定量的に評価する方法について調べてまとめてみました。

保育の質とは

「保育の質」は、子どもたちだけでなく社会にとっても重要であることは言うまでもないですが、その定義や評価は案外難しいものです。国単位でもその国が置かれている国際環境によって重視する内容が変わってきそうですし、国民レベルで見ても世帯の経済環境などで違いが生じてきそうです。また、私たち一人ひとりも「先生が優しい」「遊具が充実している」といったようにどうしても主観的な印象になりがちであるのもそれを難しくさせている一つの要因と言えそうです。

日本国内における「保育の質」の捉え方

国内における「保育の質」については、厚生労働省によると一元的に定義づけすることが出来ないとした上で以下のように示されています。

子どもたちが心身ともに満たされ、 豊かに生きていくことを支える環境や経験 (保育所等における保育の質の確保・向上に係る 関連資料(厚生労働省))

つまり、子どもたちに対して単に知識だけを教えるのではなく、子どもの主体性を尊重し子どもたちがより豊かに生きていくための環境や経験をどのように与えるかが大事であるとしています。また、そのためには保育者だけでなく、保育施設や地域社会全体が連動して取り組むことによってうまく機能すると捉えています。

国際的に見た「保育の質」の捉え方

大前提として各国の制度は多様であり、それぞれの国によって何に重点を置くかに違いがあります。ここでは、各国固有の違いを越えて、OECDや国際的な学術研究の場での共通認識として使われている考え方をまとめてみます。 国際的な観点の一つとして、ECEC(Early Childhood Education and Care)という枠組みがあり、これは主にOECDやEUなどが国際的に推進しているもので「保育の質」を議論する際の共通の枠組みとして非常に重要な位置づけとなっています。

ECECでは、教育(Education)と養育(Care)は分けて考えるのものではなく、一体として捉えるべきであるという考えに基づいています。特に就学前の乳幼児期においては、教育と養育が相互に影響し合うことで、子どものウェルビーイングと発達を最大限に支えると考えられています。

また、ECECの枠組みでこれまで様々な学術研究も行われてきており、中でもエビデンスに基づく長期的な教育効果を検証した研究成果は今日まで数多く発表されてきました。その中でも、ECERSやITERS、CLASSといった保育の質を評価する尺度をベンチマークにすることで各国の保育の質を客観的に測定することが出来るようになっています。この定量スコアによって各国固有の文化や制度の違いを越えて、質の高い保育の共通項が何であるかを特定し、政策提言を行うことができる貴重な基礎データが整えられてきています。

代表的な保育の質評価尺度

保育の質を定量的に評価する国際的な尺度の代表的なものをいくつか紹介します。

ECERS(Early Childhood Environment Rating Scale)

概要

3歳から5歳の子どもを対象とした保育の質を定量的に評価する国際的に最も有名な尺度の一つです。このスコアを使えば信頼性や妥当性が高く、他国や他地域と比較しやすいためエビデンスとして有効性があります。その一方、チェックリスト方式による評価は必ずしも保育の質の概念である”相対的で多様な次元や文脈”を考慮していないといった批判もあることから、多くの研究ではECERSに加えて他の指標も測定していることが多いようです。

スコアリング

教室のレイアウト、教材の質、指導員のコミュニケーション、健康や安全など、7つの大項目にわたり、細かい指標(項目)を7段階のスコアで評価します。

また、ECERSと次項で説明するITERSについては、大阪総合保育大学教授(2025年11月時点)の埋橋玲子先生が原著を日本語訳して書籍として出版もされています。添付画像は私の自宅にあるものですが、ECERSとITERSそれぞれ別冊で販売されていますので気になった方は読んでみてください。

参考:Harms, T., Clifford, R. M., & Cryer, D. (2015). Early Childhood Environment Rating Scale, Third Edition (ECERS-3). Teachers College Press.

ITERS(Infant/Todder Environment Rating Scale)

概要

乳児期(0歳から2歳頃)の子どもを対象とした保育の質を定量的に評価する国際的に最も有名な尺度の一つです。ECERSと評価の構造は似ていますが、乳児期の発達段階に特化させた評価尺度になっています。これもECERSと同じく国際的に最も有名な尺度の一つです。

スコアリング

乳児期の発達段階に特化し、授乳、おむつ交換、愛着形成といった基本的な養育の質に重点が置かれ、ECERSと同様に7段階のスコアで評価します。

参考:Harms, T., Cryer, D., & Clifford, R. M. (2006). Infant/Toddler Environment Rating Scale–Revised Edition (ITERS-R). Teachers College Press.

CLASS(Classroom Assessment Scoring System)

概要

ECERSやITERSが主に保育環境や設備(「構造的な質」と呼ばれる)に重点を置いた評価尺度になっているのに対して、CLASSは指導者(保育者含む)と子どもたちの相互作用の質に重点を当てて評価します。あえて”指導者”としているのは、CLASSは保育現場だけでなく、乳児期から中学生時期までのそれぞれの教育各段階における尺度があるからです。これによって同じアプローチで乳児〜中学生まで縦断的に質を評価出来る利点があります。また、CLASSは主に就学前準備教育を前提とした考えに基づいています。

スコアリング

評価は3つのサブスケールとその下位にある項目で構成され、最終的には7段階評価でスコアリングされます。3つのサブスケールには「情緒サポート」、「教室運営」、「教育サポート」があります。項目については、情緒サポートであれば「ポジティブな雰囲気」や「子どもへの配慮」といった形で更に細かい粒度でそのサブスケールを構成する行動指標に関する項目が準備されているのが特徴です。

参考:Pianta, R. C., La Paro, K. M., & Hamre, B. K. (2008). Classroom Assessment Scoring System (CLASS) Manual, Pre-K. Brookes Publishing Co.

SSTEW(Sustained Shared Thinking and Emotional Wellbeing)

概要

SSTEWは主にイギリスの研究者らによって開発された評価尺度で、ECERSの形式を踏襲しながらも保育者の関わりに焦点を当てた評価尺度になっています。具体的には、保育者と子ども、あるいは子ども同士の相互作用やそこでのプロセスに着目しています。これは、子どもが遊びや活動において主体性を発揮し、内発的な動機に基づいて深く学ぶための環境と相互作用がどの程度実現出来ているかを評価することを目的としています。

スコアリング

5つのサブスケールのもとに14の項目があり、いずれも各項目は10程度の指標で構成されています。評価尺度についてはECERSやITERSと同様に7段階評価でスコアリングされます。5つのサブスケールには「持続的共同思考」、「保育者と子どもの相互作用」、「物理的環境」、「学びと発達」、「情緒的ウェルビーイング」があります。

参考:Siraj, I., Kingston, D., & Melhuish, E. (2015). Assessing quality in early childhood education and care: Sustained shared thinking and emotional wellbeing (SSTEW). Trentham Books.

最後に

今回は「保育の質を測る」ことについて、日本国内そして国際的な捉え方についてまとめてみました。保育の質という定義も曖昧になりやすくかつ定量化しにくい内容について専門家がいろいろな観点で研究を進めていることがお分かりいただけたかと思います。

また、今回紹介したECERSやCLASSといった定量スコアは、優劣を決めるためのものではなく、あくまで今後私たちが高い保育の質を実現するための現状の課題を客観的に可視化したものです。子どもたちあるいは社会全体をより良いものにするためにこのスコアをいかに賢く活用出来るかが私たちにとって大事なことであると思いました。

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