はじめに
こんにちは。スクラムマスターの渡部です。
最近、正式に6チーム(開発が動いている殆どのチーム)でふりかえりの支援を受け持つことになりました。
実は、そのふりかえりの支援は、僕から「やらせて欲しい!」と頼み込んで実施に至ったのですが、その際に話したことの一部を、詳しい解説付きでブログとして残そうと思います。
また、はじめて1ヶ月半ほどしか経っていませんが、やってみたメンバーからの感想だったり、こんなことトライしてるよ!ということも紹介しようと思います。
※ この記事は、ユニファAdvent CalendarとふりかえりAdvent Calendarの19日目の記事です。
目次
- ふりかえり支援をしたいと思ったきっかけ
- 心理的安全性を高めるには?
- 改めて、いま、僕がふりかえりでやりたいと思っていること
- 実際にやってみて出てきたトライ
- やってみたみんなからのフィードバック
- おしまい
ふりかえり支援をしたいと思ったきっかけ
ユニファは、まだまだ小さな会社です。色んな面で十分なことなんてありません。見渡せば「やらなきゃいけないこと」がゴロゴロ転がっています。それはとても有り難いことで、めちゃくちゃやり甲斐のあることでもあります。
僕は2019年3月に入社したのですが、個人的な感覚としては、入社直後から常にハイペースを維持し続けている感覚があります。(僕から見える範囲は極一部ですが、全社員、本当にめちゃくちゃ頑張ってるなと思っています。)
そんな中、この頃、ふとした会話の中で「お、それ地味にめちゃくちゃ良さげなカイゼンポイントだね!!ちゃんとした場所で相談してみるね!」ということがポツポツと出てくるようになってきたなと感じていました。
そして、そのようなことを「たまたま会話してたから、今回偶然気づけただけ」で終わらせてしまうのは勿体ないとも思いました。
話しやすい適切な場を設けることで、セレンディピティ(ふとした偶然をきっかけに幸運を掴み取ること)の機会を増やす、つまり、偶然からの幸運を意図的に増やしたいと思ったのです。
そしてそのためには、先ずは、心理的安全性を高めなければと考えたのです。
心理的安全性を高めるには?
心理的安全性のつくりかた*1によると、心理的安全性を高めていくためのいくつかのアプローチが解説されていますが、それらがやろうとしていることはつまるところ「心理的安全性の4つの因子が含まれる行動を増やす」ということに尽きます。*2
心理的安全性の4つの因子
- 話しやすさ因子
- 助け合い因子
- 挑戦因子
- 新奇歓迎因子
こうした研究とビジネスの現場の計測から見えてきたのは「日本の組織では、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4つの因子があるとき、心理的安全性が感じられる」ということです。*3
組織のカルチャーと、心理的安全性の関係
ちょっと回り道します。
日本において、心理的安全性が高い組織には共通して上記4因子が含まれる行動が多いことがわかったそうです。そして、それらの行動はチームや組織のカルチャーの影響を受けます。(話しやすいカルチャーであれば当然、普段の業務中に話す聞く雑談するといった行動は増えますよね)
次に、カルチャーとは、そのチームや組織が行なってきた行動や、行動に対する周囲からの反応が形成した歴史のことを指します。(今からこの組織は助け合うカルチャーだ!と決めたからといってそうなる訳では無いですよね)
カルチャーはこれまでの行動・反応の歴史ということですが、それならば、今から行動・反応を変えていくことで、歴史を、カルチャーを作っていくことはできるということなのです。
ですので、この4因子が含まれる行動を今からちょっとずつでも増やすことで、次第に新しいカルチャーを形成していき、心理的安全性を高くしていこう、というのが基本的な考え方になります。
そこで、何故ふりかえり?
戻ってきました。
4つの因子が含まれる行動を増やそうと思うと、「会話する」「誰かを助ける / 助けを求める」「何かに挑戦する / 試してみる / 失敗する」「多様な価値観、考え方を受け入れる」ということを実践していく訳になりますが、これらって、ふりかえりの中でやりやすいことだなと思うんですよね。*4 *5
ふりかえりの中でこれらの行動が活発に行われるよう支援をすることで、「チーム内で、仕事のこともそうじゃないことも頻繁に会話される状態」「困っている人がいたら助け合える状態」「短期的な成果に直結せずとも、小さいことでも、何かしらトライできている状態」「お互いが何を思っているか、何を大切にしているかを前より知っている状態」にしていき、それによって心理的安全性を高めていこうと考えた訳です。
改めて、いま、僕がふりかえりでやりたいと思っていること
僕は、ふりかえりという場を設けることで、次の2つに良い影響を与えたいと思っています。
- 場を定期的に、頻繁に設けることで、偶然による幸運を意図的に増やす。
- 4つの因子が含まれる行動を推奨し、増やすことで、心理的安全性を高める
そして、それらに伴って、もっと充実して働ける状態になっていけると良いなぁと思っています。
だから、ふりかえりではできる限り「会話」をしたいなぁと思っていますし、「チームとして助けあう」ことの意味もできる限り伝えたいと思っていますし、どんな小さなことでも、短期的にはもしかしたら意味のない事かもしれないけれど、「まずは試してみますか!ダメならまたカイゼンしましょう!」と小さな実験を後押ししたいと思っていますし、お互いが何を大切にしているか、何を思っているかを見える化できるエクササイズも(求められれば)取り入れていきたいと思っています。*6
ふりかえりをすることで、「何らか生産性に前向きな効果を出さなければならない」「課題を見える化しなければならない」と思われるかもしれませんが、今の僕の意識はそこよりも、4因子を推奨できるふりかえりを行うことそのものに向いています。(課題の見える化などはしっかりと成果を出すよう努めていますし、実際に成果も出ています)
問題解決のためにふりかえりをするのではなく、個人個人がもっと活き活きと働けるようにしていくために、僕はふりかえりをしたいのです。
実際にやってみて出てきたトライ
やってみたら各チームごとに色とりどりの話し合いが行われていて、純粋にめちゃくちゃ楽しかったので、それだけでも十分良かったなぁと思ってたのですが、やはりチームごとに独特な施策も出てきていたので、いくつかをご紹介します。(本当は全部紹介したい気持ちなのですが、このブログの本題から逸れるので、あくまで紹介程度に…)
デザイナー定例内での仕事紹介
一言でデザイナーと言っても、当然ですが、みんな強みやスキルセットも異なり、「お互いの強みを活かしてもっと助け合えるようにしていきたい!」という思いがありました。
ふりかえりの中で、「そのためにはお互いのことをよく知ってる必要がある」と気付き、週1回のデザイナー定例内で持ち回りで各自の仕事紹介を簡単に行い、それについての雑談する時間を取るというトライが出てきました。*7
話し終わり / 話し始めを明確に
何でも気軽に相談したい / してもらいたいと思っているチームがありました。
話している最中に途中で話が遮られちゃうと、話しにくくなって良くないよねというところから、以下の2つをワーキングアグリーメントに入れることを決めました。
- 話し終わりに「以上」とつける。
- 話したいときは挙手をする。
雑談の最適化
ふりかえりの中で、「たまたま雑談したんだけど、その後の仕事で相談しやすくなってめっちゃ良かったよ」というコメントがあり、チームとしてその再現性を高めるため、「デイリースクラムで雑談の時間を取る」ことがトライに組み込まれました。
2w後のふりかえりで、「雑談自体はめっちゃ良い!でも、話す人が偏って勿体ない」という半分Keep,半分Problemが上がって来ました。
チームとしては、それをカイゼンしたいとみんなで選び、「話す人は順番制で、お題はGood & Newで何でもOK」と、新たなトライが生まれました。
その他にも…
有志で、日報でその日の感謝をバイネームで伝える取り組みを開始したり、Slackに「後で」絵文字を用意して、「見たけど今忙しいからあとでちゃんと対応するね」という意味で使うルールが生まれたりと、細かなトライを実施することができるようになってきました。
この記事を書く時に、改めてチームごとのふりかえり資料を見返していたのですが、あるチームでは「それは好きじゃない」とされたトライも、別のチームでは「それ良いね!」と採用されていたりするので、本当に何が最適なのかはチームごとに全然違うんだなぁと改めて気付かされます。
どうしても、あるチームでうまくできたことを全体に適用して効率化しようと思ってしまいがちですが、ある施策はある状況において適切なものだと思うので、思考停止で統一ルールを敷くことは避けねばと思います。
やはり個人や個別のチームとの対話無しにカイゼンはあり得ないなと思ったのですが、しっかりと書いてありましたね、アジャイルソフトウェア開発宣言に。
プロセスやツールよりも個人と対話を、 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、 契約交渉よりも顧客との協調を、 計画に従うことよりも変化への対応を、 価値とする。*8
やってみたみんなからのフィードバック
最後に、実際ふりかえりをやってみたみんなからの感想・フィードバックをご紹介します。
思った以上に大量にフィードバックをいただけたので、削るのもどうかと思い、基本的に全て載せています。
また、僕の方で加工しない方が、生の感覚が掴んでいただけるかなと思うので、個人が特定できたりするところだけぼやかしてほぼそのままで掲載します。
ポジティブコメント
「仲良くなれた」「お互いを知ることができた」
- チームと仕事以外の話をしている時間が増えて良かった!勝手にちょっと仲良くなった、知った気がする。
- (ふりかえりでトライとして決めた)雑談タイムのおかげで、メンバーの色んな一面が見れて、親近感がわく
- みんながやっていることがわかる、知ることができる!
- ふりかえりで、他の人の問題を知ることができた!
- 普段発言しない人も必ず発言する場ができたので全員の意見が聞けて嬉しい!思い違いを防げる、本音がわかる!
- チームメンバーと会話する機会ができた。(朝会とか他のMTGは報告聞くだけになることが多いので…)
- 自分以外のメンバーがどういうことを考えているのか(課題感、やりたいこと、ストレスに感じていること)を知ることができる貴重な機会だと思う!
- 他のメンバーが悩んでいることが自分と同じであることに気づけたり、チームとしてのネクストアクションを見つけやすい!
- チームメンバーが普段感じていることを理解する材料が増えた!
- 個人的に雑談したい気持ちはあったけど、みんながどう思っているかわからなかったのでしづらかったけど、振り返りで雑談しましょう!となったのでみんなも望んでいたのかと安心して雑談タイムを設けることができた!
「楽しかった」「面白かった」
- 楽しかった。Jamboardを普段使う機会がないのでみんなでさわれて楽しかった。
- やり方がいつもと違って新鮮だったので面白かった
- リモートワークで雑談機会が減っているのもあり、チームメンバーと話す機会自体が楽しかった!
- 難しい事前準備が一切なく、いろんな手法をベーさん*9が試してくれるので振り返りの時間が毎週楽しい!ワクワクする!
「付箋が良かった」
- スプレッドシートより付箋の方が意見出しやすくてよかった。
「ふりかえりで言おうという意識が出てきた」
- ふりかえりを毎週やるって決まってから、仕事しながら「あ、ふりかえりで言おう」って意識がでてきた。
- ふりかえりの期間が短くなり、良いことがあった時に「あ、これふりかえりで言おう」など考えるようになった。
「気持ちのはけ口、整理の時間ができた」
- こまったこと、ストレスだったこと、嬉しかったことを言う場ができた!心理的安全性があった!
- 気持ちのはけ口、整理する場所として毎週楽しみになった!
- ちょっと気持ちが整理される!
- 問題があったとき、共有することで誰かが答えてくれる安心がある!
- 就業時間内に「この時間は作業しないで振り返る時間」がとれるようになった!振り返る時間をとることに罪悪感がない!
「達成感がある」
- 自分の1週間、チームの1週間やったことが明確にわかる!小さい達成感ある!
「意見を出しやすかった」
- ベーさんが何を言っても否定しないでどんな小さいことも「いいですね!」「とても素晴らしいです」とまず発言したことを肯定してくれる!素直に言える!
- ファシリ(べーさん)が別にいるので安心して自分の意見を出すことに集中できる!まとめなきゃの不安がない!
- ふりかえりが得意ではないので、自分がファシリテーションしていた時より、いろんな意見が出るようになった!
- PdMやPOが主催してしまうと、案件によっては言いにくいなどがありそうですが、第3者的にべーさんが主催してくれるとその辺は言いやすいのだろうなと思った。
「ふりかえりのやり方が勉強になる」
- 渡部さんのふりかえりのやり方は勉強になる
「結果的に、他の作業、コミュニケーションがやりやすくなった」
- ふりかえりを始めた頃は、(特に良い効果に関して)振り返りの意義をあまり理解していなかった。ふりかえりをこまめに続けることで、互いのこと(人柄や業務に対する思い)が理解できるようになり、理解できるようになってくると発言や提案がしやすくなり、結果としてカイゼンをしやすくなった。今では、こまめに続けていくのが大事な活動なのかもしれないと考えるようになった。
- オンラインMTGでの発言の約束「ちょっといいですか?」「以上です」で、MTGで会話がしやすくなった!(みんなで決めたルールを守った上での発言、という安心感がもてる)
- ふりかえりのお陰で問題に気付いて、チケットを分解するようになった!
- リモートで、「隣にいる感がない」と話したときに、専用のチャットを作ってくれて助かった!質問しやすくなった!コミュニケーションが取りやすくなった!
- スタンプ活用でやりとりのステータスがわかりやすくなった*10
「チームとしてまとまるきっかけになった」
- チームとしてまとまろうとするきっかけになった!
- 振り返りの中で自チームの行動指針や目標が不明確であることの自覚ができ、これらをすり合わせるためのネクストアクション(話し合い)に踏み出せた
- メンバー構成が大きく変わった上で、「じゃあこれからの我々はどうしていきたいんだっけ?」と言う議論に繋がっている。
「これまでやっていた作業を見直すきっかけになった」
- ふりかえりを通じて、これまで何となくでやってきた作業の意味ややり方を確認できた。
「トライがなぁなぁにならずに実践できた」
- 毎回一つ、これを意識しよう!というものがきちんと決まるので、意識してできている!
「問題の検知」
- 問題がありそうなところがわかってくる!!
ネガティブコメント
「ネガティブな感情を目の当たりにするとモチベーションが下がる」
- (MAD/SAD/GLADをやっているときは特に)他のメンバーのネガティブな気持ちを確認しているとき、過激な表現が出てくるとストレスを感じてしまい、モチベーションが下がってしまう(ただし、ネガティブな感情やストレスを表明することが大事だというのは理解しているつもり)
「人による発言量の偏り」
- 意見を多く言う人と少なく言う人の差が出る
「ドット投票のやりにくさ」
- ドット投票の際、Jamboardで投票したポイントが自分がコピーしたものかどうかがよくわからなくなって、結果「ノラポイント」が浮遊していた。
- ノラポイントがJambordに発生して、投票がちょっとやりにくい
「ふりかえりの時間の確保」
- 週1時間とられるので業務詰まっていると参加する心の余裕が作りにくいこと(これはふりかえりそのもののわるかったことではないのは重々承知しています)
- 短期的な視点かもしれないが、作業時間が減ってしまうこと。
- 他のMTGもあると、時間の確保が難しい。
- ふりかえりしたいと思いつつも、未だに「あ、今日ふりかえりの日だ…タスク進めたいのにな…」の気持ちになることがある。
「ふりかえりの時間で、そのスプリントのことをすぐに思い出せない(コンテキストスイッチ)」
- ふりかえりの時間までに頭の切り替えができていないことがたまにあり、すぐに思い出せない。コンテキストの異なる他の作業を同時並行で対応していて、ふりかえりの時間になっても、すぐに思い出せない…*11
- 時々、コメントを書く時間があったが、すぐに思い出せない時が多かった
おしまい
まず、忙しい中、沢山のフィードバックをくれたみんなにはめちゃくちゃ感謝です!ありがとうございます!!!!!
まだ取り組み初めて1ヶ月半程度ではありますが、4つの因子「話しやすさ」「助け合い」「挑戦」「新奇歓迎」それぞれに、少しずつではありますが、ボトムからアプローチできてきたのかな…手が届き初めたのかな…と思えるようなコメントがあり、「大変だったけど、取り組んで良かったなぁ…」と思えた瞬間でした。
当然、ネガティブなコメントはありますが、これらは全て「もっと良くしていけるところ」だと思っているので、優先順位をしっかり見定めたうえで、一歩ずつ前進していこうと思います。
ふりかえりがもたらしたこれらの小さなトライ、気持ちの小さな変化は、直近の生産性や組織全体としては微々たる変化なのは間違いありませんが、長い目で見たときに、大きな差をつける要因になると僕は信じています。
いまは小さな一歩ですが、この一歩は、心理的安全性に至る長く険しい道のりの第一歩足り得ると確信しています。
「ふりかえり」という単語からイメージされることは様々ですが、こんな「ふりかえり」もあるんだなぁと思ってもらえたら嬉しいです。
そして、そんなふりかえりをやってみたい!と思ってもらえたら、もっと嬉しいです。
本日のお話はここまで。
それではみなさん、よいふりかえりライフをお過ごしください。
ちょっと早いですが、良いお年を!
*2:心理的安全性そのものについての説明が欲しいという方は、こちらの記事をご覧ください。tech.unifa-e.com
*3:心理的安全性のつくりかた p49
*4:ふりかえりについては、まずはこちらのスライドが参考になります。 speakerdeck.com
*5:もっと詳しくふりかえりを知りたい方は、以下の書籍がオススメです!https://www.amazon.co.jp/dp/4274066983www.amazon.co.jp hurikaeri.booth.pm
*6:幸いなことに、複数のチームからやってみたいという声をいただいたので、ドラッカー風エクササイズなどを実施しています。
*7:定例内での仕事紹介LTについては、こちらの記事でもデザイナーさんが触れてくれています!嬉しいですね!!tech.unifa-e.com
*8:アジャイルソフトウェア開発宣言より。いつ見ても気づきがある。agilemanifesto.org
*9:ユニファにおける渡部の愛称
*10:ふりかえりで決めたトライとして、Slackの絵文字でコメントの対応ステータスを表すことを取り入れています
*11:この方は、2週間スプリントを採用していて、いまだと4つの異なる作業を掛け持ちされてます。